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長野地方裁判所諏訪支部 昭和59年(わ)65号 判決 1986年7月29日

主文

被告人を懲役三年六月に処する。

未決勾留日数中二四〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一  永田利治と共謀の上、昭和五九年五月二四日午前九時ころ、静岡県静岡市春日一丁目二番三号大石幸一方において、同人ほか一名所有の冊子式定額郵便貯金証書三冊(額面総額三七五万円)、実印一個(価格三七〇〇円相当)及び身分証明書一枚を窃取した

第二  右窃取にかかる大石幸一ほか一名名義の冊子式定額郵便貯金証書三冊を使用して同貯金払戻し名下に金員を騙取することを企て、永田利治、崔春子と共謀の上、行使の目的をもつてほしいままに、昭和五九年五月二四日午前九時一〇分ころ、同県静岡市黒金町五六番地所在の静岡ターミナルホテル内において、右窃取にかかる右大石幸一ら名義の別紙(一)掲記の右冊子三冊の定額郵便貯金証書合計二一通の受取欄に別紙(一)記載の住所及び証書の名義人の氏名を冒書して、右大石幸一ら作成名義の右貯金払戻金の受取欄二一通の偽造を遂げ、同日午前九時五〇分ころ、静岡市黒金町一番静岡郵便局において、右永田において、同局係員中村三正に対し、右大石幸一ら名義の受取欄偽造の右証書二一通をあたかも真正に作成されたものであるかのように装つて一括提出して行使し、これとともに自己が大石幸一であるように写真を貼り替えてある大石幸一の身分証明書及び右窃取にかかる印鑑を提出し、右定額郵便貯金二一口額面合計三七五万円の払戻しを請求し、同係員をして、右永田が右定額郵便貯金払戻しの正当な権限を有する者である旨誤信させ、よつて即時同所において、同係員の指示を受けた同局係員山田瑞代から右定額郵便貯金払戻し名下に元利合計現金五二七万一六一四円の交付を受けて、これを騙取した

第三  梶谷勉と共謀の上、昭和五九年八月八日午前一一時ころ、長野県諏訪郡下諏訪町五二四〇番地一古田あや子方において、同女ほか一名所有の定額郵便貯金証書など五〇六点(証書額面総額六八三五万一一九〇円)在中のホーム金庫一個(時価二万円相当)ほか一点を窃取した

第四  右窃取にかかる古田岳大ほか五名名義の定額郵便貯金証書を使用して同貯金払戻し名下に金員を騙取することを企て、永田利治、崔春子と共謀の上、行使の目的をもつてほしいままに、昭和五九年八月八日午後一〇時三〇分ころ、東京都千代田区永田町二丁目一四番三号所在の株式会社東急ホテルチエン赤坂東急ホテル内において、右窃取にかかる別紙(二)掲記の番号1から18までの右古田岳大ら名義の一八通の定額郵便貯金証書受取欄に別紙(二)記載の番号1から18までのような東京都内の住所及び証書の名義人の氏名を冒書し、右氏名の横に押印して、右古田岳大ら作成名義の右貯金払戻金の受取欄一八通の偽造を遂げ、更に翌八月九日午前一〇時ころ、右赤坂東急ホテル内において、白紙に、昭和五九年八月九日付けで妻古田マキ子名義及び母古田志げ名義、子供古田政次、同古田久、同古田あや子各名義の定額郵便貯金証書の払戻しを妻古田マキ子が夫古田岳大に委任する旨記載し、委任者として「港区三田一の一三の五赤坂ビル二階妻古田マキ子」と冒書し、定額郵便貯金証書名義人名の母及び子供の名下に「古田」と刻んだ印鑑を押捺し、委任者である妻名下に「あや子」と刻んだ印鑑を押捺し、もつて妻古田マキ子作成名義の委任状一通の偽造を遂げ、昭和五九年八月九日午前一一時ころ、東京都港区赤坂八丁目四番一七号所在赤坂郵便局において、右永田において、同局係員生食セツ子に対し、右古田岳大ら名義の別紙(二)掲記の番号1から18までの受取欄偽造の右証書一八通及び右偽造の委任状一通を、あたかも真正に作成されたものであるかのように装つて一括提出して行使し、これとともに自己が古田岳大であるように作成してある身分証明書を示し、右定額郵便貯金一八口、額面合計一〇五三万七〇〇〇円の払戻しを請求し、同係員をして、右永田が右定額郵便貯金名義人の代理人であつて正当な払戻し請求をなしうる者である旨誤信させ、よつて、即時同所において、同係員の指示を受けた係員佐藤健哉から、右貯金払戻し名下に元利合計一二七一万一六五六円の交付を受けて、これを騙取した

第五  自己及び梶谷勉が他から窃取した古田あや子ほか四名名義の定額郵便貯金証書を使用して同貯金払戻し名下に金員を騙取することを企て、永田利治、崔春子と共謀の上、行使の目的をもつてほしいままに、昭和五九年八月八日午後一〇時三〇分ころ、東京都千代田区永田町二丁目一四番三号所在の株式会社東急ホテルチエン赤坂東急ホテル内において、右窃取にかかる別紙(二)掲記の番号19から30までの右古田岳大ら名義の一二通の定額郵便貯金証書受取欄に、別紙(二)記載の番号19から30までのような東京都内の住所及び証書の名義人の氏名を冒書し、右氏名の横に押印して右古田岳大ら作成名義の右貯金払戻金の受取欄一二通の偽造を遂げ、更に翌八月九日午後一時ころ、東京都新宿区西新宿一丁目八番一〇号所在の新宿郵便局において、右永田において、同局係員佐藤武夫に対し、古田岳大ら五名名義の別紙(二)掲記の番号19から30までの受取欄偽造の右証書一二通をあたかも真正に作成されたものであるかのように装つて一括提出して行使し、これとともに自己が古田岳大であるように作成してある身分証明書を示し、古田岳大以外の証書名義人とは家族関係にある旨虚偽の申立てをして、右定額郵便貯金証書一二口額面合計四二五万円の払戻しを請求し、同係員をして右永田が、右定額郵便貯金払戻しの正当な権限を有する者である旨誤信させ、元利合計六二二万一三九九円を騙取しようとしたが、払戻金が高額であつたため、同局貯金保険課主事川端下袈裟男から事務室に入るように言われて、同人に古田岳大でない旨看破されたと思い、そのまま逃げ出したため、その目的を遂げなかつた

第六  自己及び梶谷勉が他から窃取した古田あや子ほか二名名義の定額郵便貯金証書を使用して同貯金払戻し名下に金員を騙取することを企て、永田利治、崔春子と共謀の上、行使の目的をもつてほしいままに、昭和五九年八月八日午後一〇時三〇分ころ、東京都千代田区永田町二丁目一四番三号所在の株式会社東急ホテルチエン赤坂東急ホテル内において、右窃取にかかる別紙(三)掲記の右古田あや子ら名義の七通の定額郵便貯金証書受取欄に別紙(三)記載のような東京都内の住所及び証書の名義人の氏名を冒書し、右氏名の横に押印した上、更に同月一〇日午前九時三〇分ころ、静岡県浜松市内で被告人らが乗車している普通乗用自動車内において、別紙(三)記載のように右都内の住所を抹消し浜松市内の住所を記入して変更し、右古田あや子ら作成名義の右貯金払戻し金の受取欄七通の偽造を遂げ、更に右同日時ころ、右浜松市内の右普通乗用自動車内において、便箋に昭和五九年八月一〇日付けで、妻古田あや子名義及び子供古田志げ子、同古田マキ子名義の定額郵便貯金証書の払戻しを妻古田あや子が病気のため夫古田孝夫に委任する旨を記載し、委任者として「浜松市中田一―一五古田あや子」と冒書し、右子供及び妻の名下に「あや子」と刻んだ印鑑を押捺し、もつて古田あや子名義の委任状一通の偽造を遂げ、同日午前一〇時ころ、浜松市旭町八番地の一所在の浜松郵便局で、右永田において同局係員山本泰子に対し、右古田あや子ら名義の受取欄偽造の右証書七通及び右偽造の委任状一通をあたかも真正に作成されたものであるかのように装つて一括提出して行使し、これとともに自己が古田孝夫であるように作成してある身分証明書を示し、右定額郵便貯金七口額面合計五九一万円の払戻しを請求し、同係員をして右永田が右定額郵便貯金名義人の代理人であつて正当な払戻し請求をなしうる者である旨誤信させ、よつて、即時同所において、同係員の指示を受けた係員田光利恵から右貯金払戻し名下に元利合計八三〇万三八八九円の交付を受けてこれを騙取した

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(累犯前科)

被告人は、昭和五二年五月二五日名古屋地方裁判所岡崎支部において傷害、窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺、同未遂罪により懲役三年に処せられ、昭和五四年一一月二六日右刑の執行を受け終つたものであつて、右事実は、前科調書、判決謄本によつてこれを認める。

(法令の適用)

罰条

判示第一、第三の各所為   各刑法二三五条、六〇条

判示第二の所為中

各私文書偽造の点      各刑法一五九条一項、六〇条

各偽造私文書行使の点    各刑法一六一条一項、一五九条一項、六〇条

各詐欺の点         各刑法二四六条一項、六〇条

判示第四の所為中

各有印私文書偽造の点    各刑法一五九条一項、六〇条

各偽造有印私文書行使の点  各刑法一六一条一項、一五九条一項、六〇条

各詐欺の点         各刑法二四六条一項、六〇条

判示第五の所為中

各有印私文書偽造の点    各刑法一五九条一項、六〇条

各偽造有印私文書行使の点  各刑法一六一条一項、一五九条一項、六〇条

各詐欺未遂の点       各刑法二五〇条、二四六条一項、六〇条

判示第六の所為中

各有印私文書偽造の点    各刑法一五九条一項、六〇条

各偽造有印私文書行使の点  各刑法一六一条一項、一五九条一項、六〇条

各詐欺の点         各刑法二四六条一項、六〇条

科刑上の一罪     刑法五四条一項前段、後段、一〇条(判示第二につき一罪として刑期及び犯情の最も重い別紙(一)の番号10の詐欺罪の刑で処断。判示第四につき一罪として刑期及び犯情の最も重い別紙(二)の番号15の詐欺罪の刑で処断。判示第五につき一罪として刑期及び犯情の最も重い別紙(二)の番号29の詐欺未遂罪の刑で処断。判示第六につき一罪として刑期及び犯情の最も重い別紙(三)の番号3の詐欺罪の刑で処断。但し、以上判示第二、第四、第五、第六につき各短期は偽造有印私文書((偽造私文書))行使罪の刑のそれによる。)

累犯加重       刑法五六条一項、五七条(各罪につき再犯の加重)

併合罪の処理     刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重。但し短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。)

未決勾留日数の算入  刑法二一条

(求刑懲役五年六月)

別紙(一)

<省略>

<省略>

別紙(二)

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(三)

<省略>

<省略>

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